すべてを進化させた新生日産軽
- 新型DAYZ開発秘話 -
お客さまに喜んでいただける魅力がたくさん詰まった新型DAYZ。 そこには開発担当者の良いクルマをつくりたいという熱い思いと挑戦がありました。
デザイン
こだわり抜いたデザインデータ
インテリアデザインの注目ポイントは、助手席側のインスト形状です。アウトカーブとインバースカーブを使い分け、ナビからドア側に向かって絶妙に基準面を変化させています。そして本物のような樹脂ステッチと細かい三角形のパターンを車両の外側に向かって通しています。アウトとインを使い分ける大胆さと、細かく正確に並べていくパターンの精密さを合わせ持っているので、デザインが決まるまで相当な時間を費やしました。特に絶妙に変化させた基準面は、0.2mm丸みが変わっただけでも別物に見えてしまい、アウトとインのバランス取りに苦労したことを覚えています。ぜひ手で触って絶妙さを感じてみて下さい。
設計
開発を任されたときの思い
新型DAYZは、日産自動車と三菱自動車、NMKVと共に開発を行うクルマで、今までにない連携の仕組みを作りながら進めなければならず、自分にとっても非常に難易度が高いクルマで、後続車もあることから重要なミッションを請け負ったと感じました。 そのクルマを当社が一括で請け負う以上、最後には絶対に「いいクルマになったね」、「日産オートモーティブテクノロジーに任せてよかった」と言われることを目標に取り組んできました。
内装に溢れる工夫の数々
新型DAYZには使い易い収納がたくさんあります。特に助手席のドアに作った車検証入れのおかげで、車検証に占領されていたグローブボックスが自由に使えるようになりました。これらを実現するために、デジタルから初めての工場との連携、初めてのサプライヤーとのやり取りが始まり、短い日程の中で密に打ち合わせを行いながらうまく進めていきました。フィジカルに入ってからは、数え切れないほど新幹線に乗り、水島製作所やサプライヤーに通いました。先方も日産との仕事は初めてなのでお互い苦労も多かったですが、たくさんの方に助けていただき、良いクルマになったと思います。
もう狭いなんて言わせない!
軽自動車の大きさは、全長3.4m、全幅1.48m以下と法律で決まっています。なのに、新型DAYZの後席の広さはFUGA並!いやそれ以上!荷室もA型ベビーカーが積めます。部品一つ一つを見直し、エンジンルームをとにかく小さく、運転席をなるべく前に配置し、競合車の中でナンバーワンの広さを実現しました。通常、フルモデルチェンジと言っても新規部品は30%程度ですが、新型DAYZは90%以上!このようなクルマは聞いたことがありません。余すところなく当社のこだわりが詰まっていますので、ぜひディーラーで驚きの広さを体感して下さい。思わず「うわ、広い!」って言っちゃいますよ。
女性でも閉めやすいバックドア
バックドアの大事な機能に、『閉めやすい』と『開状態を保持する』があります。保持するためにはしっかりと支える必要がありますが、これは『閉めやすい』とは相反することになり、これを両立させることが設計者の腕の見せ所です。さらに軽自動車は、ここに"軽い"という要素が加わります。軽さは『閉めやすい』には不利な要素ですが、女性でも『閉めやすい』を実感してもらえるように、閉めやすさを表す閉じエネルギー値が従来よりも低い値になるようにしています。デジタルにおいてGASスプリングの反力&配置計画を細かく何度も見直すことにより、実現できています。ぜひ実車で体験して下さい。
まるで登録車!質感高いExterior
商品性向上を目的としフロントバンパーに取りつけるナンバープレートをセンター置きにしました。通常、エンジンルームスペースの効率を重視した軽自動車は、ラジエーター冷却性能を満足させるために、ナンバープレートを左右どちらかに設定せざるを得ません。しかし、今回は空気の流れを十分に考慮し、効率よくラジエーターに風を当てられるよう設計間で幾度となく調整し、"軽自動車の枠にとらわれない"という設計努力が目に見える形で実現できました。工場及び生産技術担当者は三菱自動車でしたが"いいクルマを作る"という思いは同じ。この協業でたくさんの人とつながりを持つことができ、良い経験と勉強になりました。
日産初のALiSシステム
日産初のリチウムイオンバッテリーとサブスタータジェネレータを用いたスマートハイブリッドシステムを採用しています。SERENAは鉛酸バッテリーを2個搭載していますが、その内の1個をリチウムイオンバッテリーに変えることで回生量を増やし、燃費を向上させています。鉛酸バッテリーとは違った要件ばかりで、輸送〜水島工場での保管条件、熱や音の閾値など、搭載要件をゼロから洗い出していくことになりました。衝突時の保護については、車体の骨格の補強も必要となり、車体設計の枠を超えたご協力のもと成し遂げることができ、当社全体のチームワークを実感できました。
軽クラス初"プロパイロット" の開発
過去のクルマを流用するというシンプルな開発ではありませんでした。軽自動車という限られた性能の中で、登録車と遜色なくかつ軽としての味付けをしました。ポイントは、前を走っているクルマを追従し減速する時に、手前で充分な減速をさせてから、停止間際に停止距離を調整したことです。安全に止まれることを運転者に感じていただけるように仕上げました。先行車と距離が空きすぎてしまう、遠い近いの距離ブレといった背反性能があるため、ブレーキプロファイルの最適化には時間がかかりました。軽自動車だからと妥協せず、登録車に負けない性能をチーム全員で目指した自信作です。
ちょっと気の利いた表示が出るメーター
新型DAYZのメーターはドライバーに分かりやすく、一目で見やすい高解像度の4.2インチTFT カラー液晶を設定しました。このディスプレーにより車両のさまざまな情報を見ることができます。一例として、車両のタイヤがどちらに向いているのかが一目で分かるように、ハンドルの舵角情報を元に、タイヤの向きを表示。運転が苦手な方でも、簡単に車両の状態を知ることができます。さらに、カレンダー機能では、記念日や誕生日などの特別な日を設定することができ、記念日当日に車両のドアを開けると特別な演出がメーターに表示され、サプライズ感を演出してくれます。
「解析評価したら終わり」にしない
車両解析"新型DAYZ チーム"では、4つのことを意識し開発を進めました。
① デジタル評価後の対策提案は取りまとめて実施し、設計検討の無駄をなくす
② デジタルフェーズ完了後も自身が提案した形状が具現化するまで責任を持つ
③ フィジカルフェーズの問題に迅速に対応する
④ 解析評価のミスについてはしっかりと振り返り、次のクルマの評価に織り込む
今回の開発は解析評価完了後も自分たちが開発に関わったクルマが完成するまで、さらには次のクルマの開発までいつも以上に責任を持って取り組むことができたと思います。
最後まで諦めなかった。軽No.1への道!
今となっては良い思い出です。試作車両の初期品質確認からの流体エンジンマウント開発で、軽ナンバーワンの乗心地性能に貢献できました。他車に負けたくない!との思いで、性能・実験・解析と毎週の性能連絡会で最適特性を論議し、最後までチューニングしました。組立前日(日曜日)に、チューニング部品を水島製作所へハンドキャリーしたこともあり、工場に迷惑をかけてしまいましたが、図面直行率活動(ときには親睦会?)でつないだ関係もあり対応していただけました。正直くじけそうになるときも多々ありましたが、今回の開発で得た経験と人脈は今後の軽開発の糧となると信じています。
決められたルールの中で"らしさ"を表現
軽自動車の決められた排気量、最高出力の中で、お客さまに喜んでいただける日産らしさを性能で表現しました。登録車開発の経験を活かしたエンジンの"力強さ"、"静粛性・心地良い音色"という、"らしさ"がしっかりと市場の評価に表れていて嬉しいです。現在、自動車販売台数ナンバーワンのクルマの元開発責任者の方から、こんな言葉をいただきました。「日産は初めて軽自動車開発を行った。だから、一つ一つの開発にとても真摯に向き合ってこられたのでしょうね。それがクルマに表れています。いいクルマです。売れますよ、絶対!」嬉しい言葉ですよね。皆さん、今後の開発に自信が持てますね!
DAYZ4つの顔の同時開発に貢献!
CADデータ作成業務では、日産ブランドと三菱ブランドを合わせて4種類のデザインを同時進行で作成しました。当初はインフラも整っておらず、CADデータの送受信時間バラツキがあったので、日程管理を通常より細かく行う必要がありました。進捗状況がひと目でわかるように、日にちや時間で管理したり、関連部署と三菱サプライヤーも確認できるよう共通サーバーを開設したりもしました。これによって、お互い親密になり会話も増え、楽しくモノづくりを進めていくことができました。
日産初・三菱自動車との共同開発トランスファ
今回のトランスファは、初めての三菱自動車開発・生産と当社の共同開発ユニットでした。開発当初は開発スキームがない中で、当社・三菱自動車の開発体制構築・三菱自動車生産との連携に戸惑いがありました。開発が進むにつれ基準の違いなどで苦労しましたが、お互いをリスペクトしながら良い部分を織り込んだユニット部品ができました。またエンジニアリング完了後のオイル変更、出荷判断会直前の音振対応など、最後の最後まで大変でしたが、これまで築いてきた三菱自動車の方との密な関係により迅速に対応でき、無事立ち上げることができました。
実験
軽自動車エンジンでのアイドル性能
日産初開発の軽自動車の小排気量(660㏄)エンジン(NOTE1.2Lの約半分!)でいかに補器負荷に負けずアイドル回転数を保持するかが大きな課題でした。他社の軽自動車のベンチマーク調査から、他社もやはり苦労していることや軽自動車のノウハウを学び、他性能と両立させ、なんとか課題を解決することができました。最後まで課題が発生し対応に追われましたが、日産初の軽自動車の開発に関われてよい経験ができたと思っています。
101日に及ぶ三菱自動車水島製作所出張
私は保安防災実験を担当しています。新型DAYZは日産で開発したクルマを三菱自動車の水島製作所で生産する初のプロジェクトであったため、通常の開発業務に加え、三菱自動車の方々に保安防災評価業務を担っていただくための技能伝承トレーニングを行う必要がありました。最初は部品名称や評価用語をお互い理解することからスタートするなど、異なる文化のすり合わせに苦労しましたが「より良いクルマをつくりたい!」というお互いの真摯な気持ちと、トータル101日に及ぶFace to Faceでのやり取りの結果、短期間での技能伝承を成し遂げるとともに、アライアンスの基盤である仲間意識も強まりました。
* 掲載情報は取材時のものです。